トライアスロンや競泳の日本代表も高地合宿拠点としているGMOアスリーツパーク湯の丸屋内プール(標高1750m/長水路)

高地トレーニング、はじめよう。 オリンピアン 小田倉真 × 湯の丸高原

トップアスリートの強化だけでなく、エイジグルーパーの間でもNEWスタンダードとなってきた「高地トレーニング」。その聖地とされる長野県東御市〈湯の丸高原エリア〉を重要な強化拠点としているオリンピアン小田倉真に、トライアスリート目線でのメリットや、かの地の魅力を語ってもらった。

写真=小野口健太 Photographs by Kenta Onoguchi
参考図書=『選手・指導者のための高地トレーニング 利用の手引き Ver.2』(2020年度ナ ショナルトレーニングセンター競技別強化拠点機能強化事業)

小田倉 真

小田倉 真Makoto Odakura

Tokyo2020日本代表(19位)。三井住友海上所属。小学3年~高校まで競泳に打ち込み、日本体育大学在学時にトライアスロンに転向。2021年の五輪代表選考レースWTCS横浜大会で代表内定基準内の16位かつ日本人トップとなり、代表入りを決めた。2022年には、スタンダード(東京・お台場)とロング(佐渡)の両日本選手権を制している。

近年の研究で、週末の合宿滞在だけでも効果があることがわかってきている「高地トレーニング」。都市圏からのアクセスも良い、湯の丸高原(長野県東御市)にトレーニング環境が整ったことで、市民アスリートの間でも、新たなスタンダードとなってきている。

今回は、この湯の丸高原での高地トレーニングを足がかりに躍進を遂げた小田倉真選手にお話をうかがった。

湯の丸高原起点のバイクコースは、ハードなヒルクライムからローリングヒルまで、さまざまな「上り」を選択できるのが魅力

ブレイクスルーを支えた高地トレのメリットとは?

ここを強化拠点にしているトライアスリートは増えていますが、中でも「小田倉さんは、湯の丸に住んでいるらしい」と言われるくらい、ここで練習する機会が多いと聞きました。

小田倉真剣に、ここに移り住めないか考えたこともあるくらい、活用させてもらっています(笑)。

最初に「おさらい」も兼ねて、高地トレーニングのメリットを、実感ベースであらためて一言で言うと?

小田倉高地で練習して、過ごすことで赤血球、ヘモグロビン量が増えて、酸素運搬能力、筋肉での酸素消費能力、最大酸素摂取量が向上するため、感覚としては「それまで苦しかったペースが、後半になっても保ち続けられる」という感じです。

ここを拠点に高地トレーニングをするようになったのは東京オリンピック前、2020年からだそうですが、それ以前も高地トレーニングを?

小田倉2018年に一度、フランスのレザングル(標高約1800〜2000m)で一度、7週間の合宿をしたんですけれど、初めての経験ということもあり、思い切り失敗しまして……。

もう後半どんどんコンディションが悪くなっていき、調子を崩して日本に帰ってきた感じでした。そんな経験もあり、あんまり高地トレーニングは向いてないのかな……と、ちょっと、恐怖心さえもってしまってました。

海外には、高地トレーニング適地はいろいろありますが、日本人の僕たちが行くと、やっぱり食事の面でストレスを抱えちゃったり、体調を崩したり何かあったときの対応も難しい。

バイク・ランの切り替えを磨くべく、バイクパンツのまますぐにランへ。標高1700m前後の林間コースが実戦想定のブリックランに最適

湯の丸の環境が整ったのは、ちょうどよかったわけですね。でも、高地トレーニング自体への恐怖感は?

小田倉東京オリンピックに向けた日本国内での合同練習などで交流するようになったノルウェーチームのサイエンティスト、オラフ(・アレクサンダー・ブー)さんが一度日本で、「ノルウェーチームが何でこんなに強くなったのか?」講義してくれた機会があって、そこでちゃんと乳酸値を測って、緻密に強度をコントロールする方法とか、高地トレーニングのメリットやリスクなどについて具体的に教えてくれたんです。

オラフさん曰く、「高地トレーニングは、まず慣れることが大事」だと。何度もやることで自分の身体の反応がわかってきて、自分なりのやり方もわかってくる。高地順応も早くなるけれど、最初の2〜3回目までは、うまくいかないこともあると。

そこで、最初は失敗する前提で(五輪の前年)2020年に4回ほど湯の丸で合宿して、オリンピックの前にも3月に1回、合宿をしました。僕は当時、代表選考の中で後がない状態だったので、開き直って「新しいことやるしかない!」と。

結果、5月の横浜で16位に入り、代表入りを決めましたね。

小田倉ちょうど横浜の前、3月に行った通算5回目の高地トレーニング合宿で、ようやく自分に合った練習強度とか、練習方法がわかってきたんです。

まわりのほかの代表候補たちは普段の練習でも、みんな強かったんですが、自分は練習では彼らのペースにはついて行かず「自分は自分の練習をする」と心に決めて、湯の丸でも納得のいく練習を積んでいたので、その成果がちゃんと出たのかなと思います。

GMOアスリーツパーク湯の丸ヴィレッジ(高原荘)トレーニングルーム(写真)を活用してウエイトトレーニングを行うこともある

【小田倉選手@湯の丸 1日のトレーニング例】

合宿2日目で高地順応を主目的としているため運動強度は基本的に低め。ベーストレーニングくらいのイメージ。

7:00
朝食(アスリート食堂)
8:00
バイク3時間ライド
〈草津往復 約70㎞〉
11:00
ブリックラン約10㎞
〈標高1750m付近クロカンコース〉
12:00
昼食
13:00
スイム約90分
〈GMOアスリーツパーク湯の丸屋内プール〉

※当日はこの後、インタビュー取材。通常はトレーニングルームでウエイトトレーニング等を行うことも。

大事なのは「自分の練習」自分の強度に集中すること。

我々エイジも参考にできるコツは、その自分の適正範囲内で「強度を上げ過ぎない」ことですか?

小田倉そうですね。強度を上げ過ぎた練習をすると、疲れが取れなくなってくるんですよね。乳酸カーブテストをしても、乳酸のカーブが急激に上がるポイントが早い。そこで試しに、すごく抑えた低強度の練習だけを3週間ほど続けてみたんです。 心拍で言うと110くらい。その結果、(血中乳酸値が急激に)上がるポイントがはるか先になって、そのときはランニングでテストしていたんですが、そのトレッドミルでは、もうそれ以上スピードが出せないっていう状態まで行ったんです。自分はもしかしたら、終始、低強度でやったほうがいいかもしれないなと。

もちろん人によりますし、レース並みの強度の刺激も必要ですが、僕ら日本のトライアスリートは、一般的に「高強度に頼っちゃう」というか、ついレース強度まで上げて、自信をつけたくなりがちですよね。

他の選手との練習でも、ひとりが仕掛けたら、ついていかなきゃってなって、小競り合いになっちゃう。でも、たとえばノルウェーチームの練習を見てると、みんな、遅れても自分のペースを崩さず、それぞれが「自分の練習」に集中している。

僕自身、誰かが仕掛けたらついていかなきゃ……という思考があったんで、自分が弱いところはそこだったんだなと。以降は「自分の練習」を明確にして、そこに集中するようにしています。

それが、この高地トレーニングにもフィットすると。

小田倉高地トレーニングこそそういう感覚は必要だと思います。高地順応しやすいかどうかも個人差があって、高強度を出しても、すぐ回復できる人もいますが、自分を過信しちゃいけない。僕は、弱い自分も受け入れて、丁寧に慎重に。でも、なるべく低強度っていう感じを心がけています。

唯一無二の聖地、湯の丸高原エリアの魅力。

トライアスロンのトレーニング・エリアとしての魅力は?

小田倉まずはやはり、あれだけ立派な屋内プールが(宿泊先から)歩いてすぐのところにあって、陸上トラックもクロカンコースもある、コンパクトに欲しい施設がまとまって整備されている点は、もちろん魅力です。

トライアスリート的には、バイクライドのコースバリエーションが豊富というのも大きな魅力だと思います。

特に僕の場合、どうしても低強度で長く乗るバイクトレーニングが多くなるので、同じ距離を乗るにしても、練習内容の次にロケーションで走るコースを選んでしまいます(笑)。

今日も草津までの道を往復するライドでしたが、(有名な温泉街)草津の町まで行くのも、ひとつの楽しみで、この3時間ライドは結構好き。あとは菅平方面への2時間くらいのコースもあって、菅平の街並みなんかも好きですし、もうちょっと走ったら軽井沢にも行けます。

トレーニングの面で言っても、ただ急な上りだけでなく、いろいろな種類・タイプの「上り」をコースに入れられる。トライアスロンの実戦想定で「脚を削る」コースはたくさんあるので、実戦のランに近いような脚の状態をつくってから、そのあとのブリックランに行くことができます。

今日やった草津往復3時間ライドの後のブリックランなんかも、僕と同じように、バイクからランへの切り替えが苦手という方には、オススメのメニューですね。ライド後、なるべくペースは遅く抑えて走って、脚をつくる。 この標高(1700m前後)で走るから、レースに近いような、ちょっと苦しい状況も再現しやすいです。ここはさまざまな環境・条件が整っているので、やりたい練習が明確になると、コースバリエーションはどんどん増やせそう。もちろん今後、パリに向けても強化拠点にしていきます。

アスリートのための食事も充実

女子栄養大学が監修した地元食材中心のアスリートメニューが提供される「ニッスイ湯の丸アスリート食堂」
海外で初めて7週間の高地トレーニング合宿を行った際に感じた食事の面でのストレスもここなら全く感じない
ビュッフェ形式で供されるアスリートメニューは長期滞在していても、メニューかぶりなしという多彩さが好評
各メニューの栄養成分・カロリー表示のほか、ご飯の量が一目でわかる表示やキッチンスケールまで完備している

高地トレーニング -競泳元日本代表 松田丈志 × 杉田正明 日本体育大学教授編- はこちら