高地トレーニング、はじめよう。 競泳元日本代表 松田丈志 × 杉田正明 日本体育大学教授

トップアスリートの間の常識「高地トレーニング」。一般トライアスリートにも効く、その取り入れ方とは? 2022年、佐渡国際トライアスロンAタイプで「初ロング」完走を果たしたメダリストスイマー松田丈志さんが取材して、湯の丸高原で実践!

本記事はトライアスロン・ルミナ2022年9月号掲載【松田丈志の自分超えプロジェクト「日本最長トライアスロン236.2kmへの挑戦」連動企画】を一部改変したものです。

写真=武智佑真 Photographs by Yuma Takechi
取材=光石達哉 Text by Tatsuya Mitsuishi
参考図書=『選手・指導者のための高地トレーニング 利用の手引き Ver.2』(2020年度ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点機能強化事業)

〈3〉はじめての週末高地トレ
2泊3日の合宿プランとは?

どんなトレーニングをして
効果をどう測る?

高地トレーニングのデメリットや注意点(⇒前回記事を読む)にも気をつけながら、みなさん2泊3日など、短期滞在でもできるだけ効果的な練習をしたいと思うんですが、どんな内容がいいですか?

ある程度、運動ができる人を想定していますが、初日は午後からトレーニングするとして、ランならゆっくり長めのクロスカントリー、スイムならペーススイムで乳酸が出るか出ないかの閾値レベルで身体を慣らします。

初日はそのくらいで様子を見て、2日目の朝練習は40~60分ぐらいのジョギング、 午前中はインターバルなどちょっと強度の高い練習、午後はまたゆっくり長めのトレーニングですね。

3日目も頑張るなら、同じく40~60分間の朝練習をして、午前中はちょっと速めのペーススイムで終えて、午後に帰るイメージでしょうか(表C)。

表C 2泊3日 週末高地トレーニングの例〈ある程度トレーニングできている人向け〉

どのようにすれば、高地トレーニングの効果がわかりますか?

高地トレーニング前に、ペースランニングしたときの心拍数や乳酸値を記録しておきましょう。下山した翌日に同じ運動をしたときは、心拍数も乳酸値も下がっていると思います。

採血が必要な乳酸値は一般の人は簡単に測れないと思いますが、他に何か測る方法はありますか?

主観的な運動強度を測るスケールがあります。自分が行っている運動がどれぐらいキツいかを、6~20で自己採点するんです。6が一番楽で、20が一番キツい。13ぐらいがややキツい、15がキツい。それをもとに同じペース走をしたときのキツさの感覚が変わると思います。呼吸も楽に感じるでしょう。

高地トレーニング前後で比較して、主観的にでもよくなったと感じられるといいですよね。

注意していただきたいのは、高地トレーニングを頑張った後はかなり疲れます。しっかり睡眠をとってリカバリーし、仕事や勉強なども詰め込まないほうがいいですね。

当然、ダメージはありますよね。高地トレーニングが合うかどうか適性や個人差があるので、大会前にぶっつけ本番で行くのではなく、1回試しておいたほうがいいですね。今回はトライアスロン合宿なのでスイム・バイク・ランの3種目の練習があるのですが、高地トレーニングの効果で3種目の違いはありますか?

運動の形態が違うだけで、効果は同じと考えていいと思います。ただ私が感じているのは、水泳は元々、呼吸を制限しながら運動しますよね。高地でのスイムはより低酸素の状態になるので相当キツいはずです。

現役時代の苦しい思い出があるんですけど、競泳はターン後に15mくらい潜れるんですが、高地ではその15 mを潜るのがすごくキツかった。

一般の人が同じことをすると、身体に負荷がかかり過ぎるかもしれない。だから、欲張らずに普通に泳ぐぐらいでいいと思います。

いるだけでトレーニング
リラックスして楽しもう

最後に、これから高地トレーニングをやってみようという方へメッセージはありますか?

高地トレーニングは身体を作り変える刺激を与える環境に行くので、体調には十分留意してください。日本の選手はみなさん真面目で、一生懸命に高地トレーニングに取り組みます。一生懸命やった選手でも結果が出ないということもよくあって、逆にちょっと体調が悪い、キツいと言って軽い練習しかできなかった選手が、その後よく走れるというケースもあります。

自分の体調と相談して、高地にいるだけでトレーニングになるので、ハードにやらないといけないと思わないように、無理をしないでリラックスした気持ちで高地トレーニングを楽しんでいただくのがいいと思います。

GMOアスリーツパーク湯の丸に常設されたトレランコースでブリックランを入れるTKこと竹谷賢二さんと合宿参加者たち
7月2~4日に開催された「湯の丸合宿TKとバイク強化」。2泊3日で高地トレーニングを体験できる人気企画
合宿2日目には松田さんが合流。屋内プールでほかの合宿参加者とともにバイク&ラン後のダウンスイム
湯の丸~嬬恋村をぐるりと回る、上り区間たっぷりのバイク練習に挑んだ松田さん。佐渡Aに向けて良いトレーニングに
合宿講師のTKは松田さんに歯ごたえのあるスイムメニューをリクエスト。高地トレーニング用プールならではの苦しさを体感

トップページへ戻る

松田さんの「自分超え」の行方は動画でチェック!

今回の杉田教授へのインタビュー、湯の丸合宿での実践の模様は、松田さんのYouTubeチャンネルでも紹介されています。

指導・監修

杉田正明

杉田正明Masaaki Sugita

日本体育大学体育学部教授。長年にわたりオリンピックや世界選手権、ワールドカップサッカーで戦う日本代表らへの強化支援、医・科学サポート活動を行ってきた。東京2020オリンピックでも日本代表選手団本部役員(情報・科学担当)を務め、トライアスロンやマラソン・競歩をはじめ各競技の日本代表への科学的支援にあたった。松田丈志さんも現役時代アドバイスを受けるなど、高地トレーニングにも精通している。

聞き手・実践

松田丈志

松田丈志Takeshi Matsuda

アテネ、北京、ロンドン、リオで4つのメダルを獲得した元競泳日本代表。2016年に引退後は、イベント等での水泳指導のほか、TVなどのメディアでコメンテーターや解説者としても活躍。2018年からトライアスロンにも参戦し、佐渡国際トライアスロン大会では2年連続でBタイプ(ミドル)を完走、コロナ禍を経て2022年タイプで「初ロング完走」を果たしている。